サイト・デザイン

最良のインターフェースは「ノー・インターフェース」

こんにちは、Webデザイナーの団子の人です。
引き続きモンゴロイドではUI/UXについて書籍を読み、理解を深めたうえで記事を書くということを行っています。

今回選んだのは、『さよなら、インターフェース』という書籍です。
前回のUIを重要視した記事とは別の切り口で、「ノー・インターフェース」という考え方をご紹介します。

「まず画面」の思考法から「脱画面」の思考法へ

製品・サービスを生み出すためには、利用者のペルソナを立てたり、想定できるペルソナの行動・思考・感情をストーリーボードやカスタマージャーニーマップに落とし込んだりして、必要な要件や課題を抽出します。

しかし、そのあと浮き彫りになった課題に目を向けるよりも先に、

「まずは画面を」

と考えてしまいます。
これは、どんな業種でも起こりえます。
優れたユーザー体験と技術的な解決法を編み出すはずのプロセスが、いつの間にか「画面を模した長方形を描く」という行為にすり替わってしまうのです。

目的を達成するための手段が「画面」であるはずなのに、
「画面」という手段を設計することが目的になっている。
これこそが「まず画面」の思考法です。

「まず画面」から入るインターフェースの一例で「My BMW Remote」というアプリがありました。
このアプリは、車のドアロック解除やエアコン起動など複数の操作をスマートフォン上でできるというもので、ドアロックまでの手順は下記のようになっています。

  1. 車のところへ行く
  2. スマホを取り出す
  3. スマホのスリープを解除する
  4. スマホのロックを解除する
  5. 前に使っていたアプリを終了させる
  6. 画面をスワイプして、山ほどあるアプリの中から目指すアプリを探す
  7. 目指すアプリのアイコンをタップする
  8. アプリが起動したら、ロック解除用とおぼしきボタンやタブを探す
  9. メニューを見て、試しに「CONTROL」をタップしてみる
  10. 「UNLOCK」ボタンをタップする
  11. スライダーをスライドしてロックを解除する
  12. 手で車のドアを開ける

スマホのアプリで鍵の開け閉めができる、一見便利に見えますが本当に便利なのでしょうか?
自分はドアの鍵を開けたいだけなのに、そのためにはスマホをポケットから出してアプリを起動しないといけないのです。
このアプリのUIがどれだけ優れていたとしても、「ドアの鍵を開ける」という目的に対して、手順が多すぎます。
1と12以外の操作は、スマホを取り出してアプリを操作する必要があり、従来の車のロック解除に対して到底優れているとはいえません。

実は、このアプリが公開される10年以上前に解決策を提示した企業があり、その手法を製品に取り入れたのが、メルセデス・ベンツです。
「電子認証システム キーレスゴー」という画期的なシステムで、ドライバーがクレジットカードサイズの自動応答装置を身につけておけば、車に近づきドアの取っ手を握るだけで、自動応答装置と車載の電子装置が通信し合い、自動的にロックが解除されます。

このように、「画面」を前提に作られるシステムではなく、「いつもの手順」を見直し、目的を達成するために再構築されたシステム。
これこそが優れたデザイン思考であり、ベストなインターフェースであるノー・インターフェイス、つまり「脱画面」の思考法です。

実現するためのルール

ユーザーに無用な操作を求めない、もしくはUIを持たず、そもそも操作の必要がない。
このようなノー・インターフェースを実現するためには3つルールがあります。

その1「いつもの手順を把握して、それを活かす」

現代人の意識には「まず画面」の思考法が深く根付いていて、そこらじゅうがインターフェースだらけになってしまっています。

例えばドアの鍵。
「My BMW Remote」と同じような、「携帯電話で玄関の施錠・解錠ができる」という鍵システム「Lockintron」が開発されました。
一見優れているようにも見えますが、実際はLockintron専用の錠前に交換しないといけなかったり、「まず画面」の思考法でデザインされたアプリで、下記の様な操作を毎回しないといけません。

  1. ドアの前に立つ
  2. スマホを取り出す
  3. パスコードを打ち込みロックを解除
  4. 前に開いていたアプリを閉じ
  5. アプリを探してアイコンをタップ
  6. アプリが起動するのを待つ
  7. アンロックのボタンを押す
  8. 玄関のドアを開ける

この様な操作であれば従来の鍵で普通に開けるのと対して変わらない、もしくは従来の鍵よりも手間になっています。

このアプリ公開から約1年後、Lockintronのデザインは一新されました。
専用の錠前は廃止され、元々の錠前にかぶせるカバーが提供されました。
アプリで「画面」の操作をする必要はなくなり、スマホを取り出す必要もなくりました。
Lockintronアプリをダンロードしてインストールする必要はありますが、それさえ済ませておけば、後の操作をする必要はありません。
この第2世代のLockintronアプリでは、Bluetoothで錠前と交信し合い、ドアの前に立てばロックを解除してくれ、そのままドアを開けることができます。

このように、本来の「ドアの前に立ちドアノブに手をかければドアが開く」という「いつもの手順」をしっかりと理解し活かすことで、スマホはポケットに入れたままで、「脱画面」のノー・インターフェースを実現し物事を完結できるようになっています。

その2「人間がコンピュータに仕えるのでは無く、人間がコンピュータを使いこなす」

コンピュータで情報を収集するには、ユーザーに情報を入力させる方式が今でも取られています。
そのシステムは人間が作ったのに、必要な情報は人間が入力しなければなりません。
例えば、長いパスコードやCAPTCHAの答え、ドロップダウンの質問などが例に挙げられます。
今やほとんどの人々が1人1台の端末を所持する時代になり、技術面での条件も揃っているにもかかわらず、入力形式の多くが相変わらず古いままです。
これからは、このような「ユーザーインプット」ではなく、コンピュータがユーザーの行動や周りの環境に合わせて自動で情報を取得する「マシンインプット」を普及させるべきです。

例えば、ベンチャー企業MC10とスポーツ用品メーカーのリーボックが共同開発したReebok checklightというキャップは、頭部に衝撃を受けるとセンサーが検知し、LEDライトが赤・黄・緑の色で点灯して頭部へのダメージを教えてくれます。
これは「マシンインプット」のデータ取得法が取られており、事故が起きた際にユーザーがデータ入力する必要は一切ありません。

このように、コンピュータがシンプルかつ自動的にデータを取得し、活用していくことができれば、「人間がコンピュータに仕える」のではなく「人間に仕えるコンピュータ」を作り出すことができます。

その3「ひとりひとりに合わせる」

ノー・インターフェースを実現するには、一人ひとりに焦点を当てたパーソナライズ化が有効なケースがあります。

例として入院患者に焦点を当てたノー・インターフェースシステムがあります。
まずは、患者が寝ているベッドのマットレスの下にセンサーを設置し、モニターをしておくことで、患者個人のデータを集めます。
何か異変の兆候を察知した際には、この患者専用の警報音を発すことで、その問題に対処できる医療スタッフを呼ぶ、といった事前対処型の活用ができます。

このように、個々人をモニターした履歴をデータとして紐づけておくことで、何かが起こった後の事後対処型ではなく、事前対処型に対応することができます。

今後の課題

このノー・インターフェースを実現する3つのルールには、課題もあります。

コンピュータが自動で個人の情報を取得するにあたってのプライバシー問題
勝手にコンピュータに個人情報を取られたくないという人たちや、プライバシーポリシーの重要性をきちんと理解していない人たちへの、十分な対応策を考えなければなりません。
実用化が難しい自動化ソリューションの問題
自動化ソリューションを提案するにあたって、誤作動が起きないと証明するデータを山ほど用意しなければならなかったり、提案側の責任が問われたりと、実用化に至るまでにいくつものハードルを越える必要があります。
故障や事故といった不具合の問題
発生し得る事故や故障を見越した回避策や、天災などの極端な状況下で発生する稀なケースへの対応策も、視野に入れておかなければなりません。

これらの問題を乗り越えて「ベストなインターフェースはノー・インターフェース」が普通になった世界を目指すことが大切です。

まとめ

ノー・インターフェースにも例外はあり、必ずしも「脱画面」が正しいわけではありません。
大事なのは「まず画面」に頼らず、「いつもの手順」から自然な動きのヒントを得ることです。
ノー・インターフェースの考え方を意識すれば、ユーザーの行動を邪魔することなく、自然によりよいUXを提供できるのではないでしょうか。

参考書籍:さよなら、インターフェース